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いわむらかずお『14ひきのおひっこし』のこと

いわむらかずおの「14ひきの」シリーズは、1枚の絵があり、それが何をあらわしているのかがさらっと文字で書いてある、という連続から成っている絵本として受け取ることができます。絵と文字のバランスからいうと、あきらかに絵の方に重みが置かれていると言えるでしょう。
そうした「14ひきの」シリーズでは、いずれも14匹の野ネズミ一家の日常が切り取られます。

ところが記念すべきシリーズ第1作は思った以上にシリアスです。

『14ひきのおひっこし』のタイトル通り、一家の引っ越しの様子が描かれるのですが、引っ越す理由は絵から察するに、それまで住んでいた家が人間によって荒らされてしまったからでしょう。最初に目に飛びこんでくるのは、一家が伐採された森から逃れるような絵です。
しかも、そうした強いられた引っ越しの道中で出くわすのは、イタチやフクロウといった野ネズミにとっての天敵です。
彼ら捕食者に一家が襲われることはないのですが、『14ひきのおひっこし』は次の家が見つかるまで、まさに命からがらといった緊張感が漂っています。

シリーズではこの緊張感が変奏されて引き継がれるといったわけではありません。その分、第1作の異質さが際立ちます。
もしかしたら、その後のシリーズは、第1作のようにまたいつ何時引っ越しする目にあうかもしれないという前提があり、それゆえに描かれる一家の楽しげでどこかありふれた日常は、しかしかけがえのないーーそして一瞬で壊れてしまうものとしてあると言えるかもしれません。