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宮沢賢治っぽさについて

ユーチューバーのゆたぼんが感銘を受けたという「宮沢賢治の言葉」。
実はこれ、新校本全集にも収められていないもの。

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彼がInstagramに「宮澤賢治さんのいう通りや!やっぱり人の心を本当に動かすには体験から滲み出る行いと言葉しかない!俺みたいにスタディ号で日本一周して、自分で見て、自分で体験するのが大事やねん!」というコメントともにアップロードした写真に写り込んだ「宮沢賢治」の言葉を書き起こしてみよう。

人の心を
本当に動かすには
その人の体験から
滲み出る行いと
言葉しかない。
知識だけでは
人は共感を
感じないからだ

この言葉は以前より宮沢賢治が述べた「名言」「格言」として流通しているものである。

もし仮にこれを誰か“お偉い”人が述べたとするならば、確かにここからは観念的な思想家の姿は立ち現れてこないだろう。
もっと地に足着いた、現実的な、行動をともなう人が述べそうだと言えなくもない。豊かな「体験」をしてきた人のみが発することができる言葉、とも捉えられる。
とはいえ、あまりにもひねりのない素朴な言葉づかいにリリックを感じることはできない。居酒屋に貼ってありそう・・・

興味深いのは、なぜこれが「宮沢賢治」という名前と重ねられたのかということ。
その背景には、おそらく〈宮沢賢治〉イメージとこの言葉が喚起する世界観の重なりがあるだろう。

体験、共感、行動、素朴・・・

この言葉の世界観をキーワードであらわそうとしても貧弱なものしか浮かんでこないのではあるが、〈宮沢賢治〉のイメージは今日において(も)それらをともなっていることが見えてくる。

コアなファンを形成しつつも、広く世の中に流通している「宮沢賢治」の名前。
そのなぜを考察するとき、こうした彼が書きのこしたものではなく、真偽不明の彼のものとされるものに目を向けると、案外多くのヒントがある。